自然界では風が草を刈ります。
その風の刈り方に習って行うのが「風の草刈り」という手法です。
風が吹いてユラユラと揺れる高さまでを刈る、というこの手法を用いると草の生え方、また生える草の種類が変わってきます。
全ての田の畦には難しいかもしれませんが、一部の畦でも構わないと思うので、是非風の草刈りの手法を取り入れてみましょう。
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「風の草刈り」は「杜の園芸」代表の矢野智徳さんが提唱されている手法です。
以前に広島で行われた「大地の再生講座」でそれを知ってから、自分の田んぼの畦で試してきました。
風の草刈りは、このような紐のタイプの刈払い機で行います。
それではまず、草刈り前の田の畦の様子です。
背の高い草が目立ちます。
この草をどこで刈るかというと、実際に揺らしてみて判断します。
風が吹くとよく分かりますが、穂先が一番揺れます。
指で揺らしても、穂先から少し下辺りまでがよく揺れるので、その部分まで刈ります。
他の背の低い草たちも、初めは指でチョンチョンと触ってみることをおすすめします。
そうすれば風に揺れる高さが分かります。
風に揺れる高さまでを刈ると、このようになります。
通常の草刈りとは違い、草刈り後に地肌が全く見えません。
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風の草刈りの良い点は、草の多様性を生むことだと思っています。
背の高い草、低い草、田の畦には季節を通して様々な草が生えてきます。
地際まで刈ると、イネ科の背の高くなる草が優先種となりがちですが、この手法で背の低いクローバーなどを残すように刈ると、草の種類が安定してきます。
一般的な草刈り後はこのような様子です。
地肌が露出して、畦は急激に乾燥し固くなります。
そこで、固くなった地に強い草が生えてくることになります。
その多くがイネ科の草。
また、このように背の高いイネ科を刈り倒したままの畦は、覆い被さった草が影になり、他の草が生えにくい一方で積み重なった草の下がいつまでも柔らかく地が崩れやすくもなります。
また、除草剤をふるとこのようになります。
草が無くなることで、雨が降るたびに表土が流れ石がむき出しになります。
こうなれば生えてくる草は限定的で、主にスギナなど酸性土壌に強い草が生えてきます。
草は種類により根の深さが異なります。
多種多様な草を生やすことで、浅くも深くも根を畦に張り巡らせ、畦は雨風からその地形を保たれ、適度な水分を保ち、他の生き物の住処にもなりえます。
草刈りが面倒だという気持ちは確かに分かりますが、畦はただ土が盛られている場所ではないのです。
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風に揺れる高さで草を刈ることで、草はゆっくりと枯れていきます。
その間に地表ではまた新たな草が芽吹き、畦を形成していきます。
生えた草を長生きさせることは、結果的に他の草を抑制していることになります。
稲もそうですが、稲が一株生えていることで、周りの草が生えてくるのを抑制しています。
植物の地上部は地下部の結果です。
より多くの根を張り巡らせば、大きく成長出来ます。
風の草刈りは草が落ち着くまで何回か繰り返すことが必要ですが、その度の草刈りの労力は軽減されていきます。
畦の多様性は田にも良い影響があると思っているので、僕は日々の畦の管理に取り入れています。
イネ科の草が多く、草刈りの頻度が多くて大変な場所にこそ取り入れてみてはいかがでしょうか。