2019年 05月 04日
自然栽培を始めやすい田んぼとは? 新しく田んぼを借りる時に考える田んぼの条件5つ
自然栽培とはザックリと言えば、肥料・農薬を使わない栽培方法です。
肥料や農薬を使わなくても、稲がスクスク育つ田んぼとそうでない田んぼにはどこに違いがあるのでしょうか。
今回は、自然栽培を始めやすいのはどのような田んぼなのか考えてみます。
【目次】
自然栽培一年目にして七俵の収穫
自然栽培を始めやすい田んぼはどんな田んぼ?
耕作放棄地はお宝なのか
自然栽培一年目にして七俵の収穫
僕が自然栽培を始めたのは今から六年前の2013年。二反という広さから始まりました。
稲作りをそれまでしたことがなかったこともあり、「肥料や農薬が無くても稲は育つ」という言葉を特に疑うことが無かったのも結果として良かったかも。
稲作りの専門書を片手に、なんとか苗を育てて、田植えと稲刈りは親戚のおじさんにお願いしてやってもらいました。
除草が大変と聞いていたのですが、初年度は何もしなくてもほとんど草は生えず、水管理だけで、収量は七俵 / 反ほどありました。
(※肥料と農薬を使う慣行栽培では、8俵〜8.5俵 / 反ほどが当地では平均的な収量になります。栽培品種によっては、10俵近く、またはそれ以上取る人もいます。)
振り返ってみてこの時の良いイメージが今に生きているかなと思っています。
ビギナーズラックだったとしても、初めに上手くいくということは「続ける」には大事な要素の一つと言えるでしょう。
僕のような初年度にラッキーとも言える田んぼに巡り会える人ばかりではないと思います。
なぜなら借りられる田んぼは何かしら「農作物が作りにくい」から貸してくれる場合が多いからです。
自然栽培を始めやすい田んぼはどんな田んぼ?
それでは、自然栽培を始めやすい田んぼとはいったいどんな田んぼでしょうか。
自然栽培をするにあたり、目指すべき土の状態で一般的に言われているのは『あたたかく、やわらかく、水もち水はけが良い』土です。
実際は、借りた直後からこのような土であることはほとんど無く、多くは「冷たく、硬く、水もちが良すぎる、水はけが良くない(水が抜けない)」土であったりします。
そして、こんなことを言うと元も子もないようですが、自然栽培を始めやすい田んぼとは、土の質がうんぬんよりも、諸々の条件が整っているほうが、実際は始めやすいと感じます。
僕が田んぼをお借りする時の条件は以下のようなことです。と同時に、自然栽培を始めやすい条件でもあるかなと思っています。
順不同で書きます。
1.水の利便性がよい
無農薬栽培を行うためには水の利便性がよい田んぼを選ぶようにしています。無農薬栽培における水の利便性は十分条件ですが、水を自由に使えるその安心感や稲への影響を考えると必要条件と言ってもいいのではと思っています。
それは実は肥料・農薬を使う稲作りにおいても同じ条件でもありますが、除草剤を使わないのであれば、その重要度はさらに高まります。
水深の調節、田を干した後の入水のしやすさ、除草効果、施肥管理など、田んぼにおける水の利便性の良さによる栽培のしやすさには枚挙にいとまがありません。
「天水」という雨頼みの立地は、もろに天候に左右され、また水の取り合いが必至です。
また、水路から水が取れなくても近くに川があれば、ポンプで上げることが出来ます。その場合は電気代という余分に経費がかかります。
草の管理の面では、水を豊富に使えない田んぼでは、おのずと除草剤の使用が余儀なくされることになります。
水路に川の水がたっぷり流れている、それは実はとても恵まれた条件なのです。
2.穴が開いていない
せっかく水が自由に使える条件であっても、漏水田という水漏れが著しい田んぼであれば僕はお借りすることを遠慮します。以前にお借りした田んぼは、まさにそういった田んぼで水を溜めておくことが難しかったのです。畦塗り機などを使い穴を塞ぐことが出来たかもしれないのですが、そうした機械は持っておらず手作業で修復をこころみたが、塞ぐことは出来ませんでした。
代掻きの時にいくら練っても水が漏れる田んぼは、早かれ遅かれヒエ田んぼ(ヒエだらけの田んぼ)になることが確定します。
3.土の畦である
今現在作付けを行っている田んぼ全てが土の畦ではありません。コンクリート畦の田んぼが一割ほどあります。
コンクリートの畦はトラクターの運転が難しく、別途作業が必要になります。
畦際にトラクターを寄せる時に、ロータリーという土を耕す作業部をこすることによるコンクリート畦の破損に気を付けなければいけません。
こすればロータリーの破損にもつながりかねません。
畦際にも当然草は生えていますので、その処理に手間がかかります。同じお借りするなら出来れば土の畦の田んぼを選びます。
4.隣りの田んぼの持ち主に理解がある
さあ、いざ自然栽培を頑張るぞ、と意気込んで作り始めたものの抑草・除草がうまくいかず草だらけにしてしまうかもしれません。そんな時にでも、「無農薬でやってんだから仕方ないよな」と草取りの労力を理解してくれる人はごくごくマレであることを自覚しておいたほうがよいでしょう。実際は「うちの田んぼに草の種を飛ばすなよ」と思われていても何ら不思議ではありません。
草だらけの田んぼであっても、『好意の沈黙』を保ってくれるお隣様の存在はとても有り難いです。
そんな沈黙を保ってくれるお隣様は、農業者として当然のことをさぼっているとその限りではなくなる可能性はとても高いと肝に銘じましょう。
その当然のこととは、畦の草の管理までほったらかし、地域の水路掃除に全然参加しない、田んぼへ入水するのに一日中水路を堰き止めたままだったりといったことです。
百歩譲って圃場内の草だらけにおける周囲の田んぼへの実害はそれほど影響が無い場合が多いです。ですが、無農薬栽培はまだまだマイノリティ。周囲の理解を得るには、農家が当たり前にやっていることを当たり前にやっていることが、その場で無農薬栽培をさせてもらう条件ではないかと思います。
無農薬栽培はあなたが勝手にやっていることで、当たり前のことが出来ていないようではお話になりません。
5.獣害が無い、もしくは少ない
当町でもイノシシの被害は年々増えています。なるべくイノシシが来ない田んぼをお借りするときには選びたいところ。イノシシの被害を防ぐ手段には、電気柵(以下、電柵)があります。水を上げるポンプ同様、「電柵を張る」それだけで余計な経費です。
僕がお借りしている田んぼは、イノシシよりもヌートリアの被害に合いやすい川に近い田んぼです。
ヌートリア(巨大なネズミのような生き物)は6月下旬になると決まったように川からあがってきます。ちょうど彼らにとっては繁殖時期。田植えを終えた後、少し大きくなった苗の葉を器用に泳ぎながらモシャモシャと食べていきます。葉をなくせば稲の成長に大きく影響することは言うまでもありません。
ヌートリアもまた電柵で防ぐことが出来ます。
イノシシより背は低いため、おのずと電柵を低い位置にセットします。
そうすると今度は草刈をこまめにすることになります。草がアースの役割を果たし、電力が落ちるからです。
山からはイノシシ。川からはヌートリア。
山からも川からも適度に離れた田んぼが借りれればラッキーですが、中山間地で獣の害がないところは少ないかもしれません。
耕作放棄地はお宝なのか
「耕作放棄地は自然栽培をするのに向いている」と言われています。
その理由は、何年も作付けを行っていないことで、肥料や農薬の成分が抜けていると考えられるからです。
耕作放棄地が耕作放棄地たる所以は、上記の条件のいずれかが満たされていない場合ですが、だいたい当地の場合は小さい面積であることが多いです。
作業の効率化を図りたい時に、少し大きめ(40馬力前後)のトラクターが入れない・入りにくい広さの田んぼは敬遠されがちです。
ただ小さいだけという理由で放棄されている場所ならともかく、上記の条件、特に水の利便性が良くなく放棄されていた場所があったとして、そこしか無いという状況でもない限り僕はわざわざ耕作放棄地を選びません。
水の利便性がよく、穴が開いておらず、土の畦であり、隣人に理解があり、獣害が少ない立地の田んぼは、ほぼ慣行栽培が行われていると考えて間違いないと思います。
慣行栽培田を必要以上に避けているとほぼ借りられる田んぼは無く、借りられたとしても、田んぼの復旧工事など諸々の経費が始めにかかることにもつながります。
あなたの土との関わり方によっては、「あたたかく、柔らかく、水もち・水はけの良い」土に近づけていくことは十分可能です。
運よく田んぼを借りれることになった場合、これまでの土の履歴(これまで使われた肥料や農薬の種類や量、栽培方法など)を調べることも大切なことですが、使いやすい田んぼであるかで判断されても良いかと思います。
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